2021兵庫県知事選挙
2021年07月31日
7月18日に兵庫県知事選挙が終わりました。
日本共産党も参加する「憲法が輝く兵庫県政をつくる会」の選挙結果についての見解は、7月22日付の声明で示されています。それをもとに、さまざまな方の意見や議論も参考にして私なりの振り返りをしておきたい思います。
(1)どういう情勢の下での選挙だったか
今回はこれまでの県知事選とは色々な点で違っていて、よく見ておく必要があると思います。
・初めて自民党が分裂し、長年の「オール与党」体制が崩れた。
全国で負け続きの自民党が「勝てる候補を」と分裂し、その片方が前大阪府財政課長の斎藤元彦氏を担ぎ出し、それに維新がくっつき、自民党も維新人気を利用しました。自民と維新の相乗り推薦となり、自民党本部丸抱えの選挙を展開。維新は自民党の補完勢力という立場を露わにしました。
自民党県議団の多数派は前副知事の金沢和夫氏を推し、兵庫財界、連合兵庫も金沢氏を応援しました。
「オール与党」の一員だった立憲民主党と国民民主党は、自民分裂を受けて幹部が明石市長擁立という独自の動きを見せましたが実現せず、最後は金沢候補の支援に回りました。
・井戸敏三知事が引退し、いやおうなしに全ての候補に5期20年の井戸県政への評価や態度が問われた。
・マスメディアは一貫して、自民の2候補だけの争いであるかのように描き、憲法県政の会の金田峰生候補についてはほとんど報道せず、有権者の選択肢から外す報道を行った。これは大問題。
しかも、金沢候補=「県政継承」VS斎藤候補=「改革」とする、偽りの議論でした。また維新の推薦をことさらに強調し、「維新系」という印象を一定程度与えました。
(2)論戦で明らかになったこと
・井戸県政の正統後継者である金沢候補はもちろん、「刷新」を掲げた斎藤候補も井戸県政を高く評価しており、今後の政策も両候補はほとんど違いがなかった。
斎藤候補は「大変すばらしい20年間の兵庫県政」と候補者討論会で発言し、街頭演説でもこのフレーズをくり返していたといいます。
ですから、「刷新」というスローガンでしたが、何をどう刷新するのかはっきりと言ってないし、言えないんですね。井戸県政を高く評価する以上、実態は継承にならざるを得ません。「刷新」は言葉だけのスローガンでした。
よって政策が金沢候補と変わらないのも自然なことです。
神戸新聞も、19日付1面に「20年ぶり交代 見えぬ政策」という見出しで、「井戸県政の刷新を求めた結果と言えるが、政策面で有権者に判断材料を提示できたどうかは疑問だ」「斎藤氏と、競り合った前副知事の金沢和夫氏が掲げた政策に大きな違いはなく、論争は深まらなかった」「選挙戦では『刷新』の具体的な手法までは見えなかった」と再三指摘しています。
しかし、わかっていたなら選挙中に書け!と強く言いたい。
・自民2候補の井戸県政の評価と政策の中身は、県民の利益に真っ向から反するものだった。
国の方針に従って井戸県政が進め、コロナで医療崩壊の要因となった、保健所と病院ベッドを減らしてきたことについて、候補者討論会で金沢候補は「今回のコロナに直接影響していない」と居直り、斎藤候補は「私が(大阪府に3年間)在任したときは保健所統廃合をやった事実はない」とはぐらかしました。
今後についても、社保協の公開質問状に両候補は「病院ベッド削減をやめない」、「半減された保健所の数を元に戻さない」と回答しました。医療崩壊をさらに促進するものです。
コロナ封じ込めでも、決定的なカギを握る大規模PCR検査を金沢候補は否定し、斎藤候補もワクチン一本槍で、大規模PCR検査も事業者と医療機関への補償もありません。
また阪神・淡路大震災後、被災者置き去りで、震災前からの巨大開発計画を「復興」の名目で一挙に遂行した「創造的復興」を両候補とも手放しで賛美。さらに井戸県政20年の象徴である「行財政構造改革(行革)」で福祉・教育・暮らしの施策を全面的に削減した(7月17日の私のフェイスブック参照)というのに、両候補とも今後も「行財政改革を行う」と主張しました。
・金田候補と憲法県政の会は真の争点と対決点を明らかにした。
▽保健所・病院ベッドの削減を続け、お粗末なコロナ対策を続ける県政の継続か、保健所・病院ベッドを増やし、抜本的なコロナ対策で県民の命と暮らしを守る県政への転換か▽大型開発を続け福祉を切り捨てる県政の継続か、県民の福祉・暮らしのためにお金を使う県政への転換か―が真の争点であり、それは金田候補か自民2候補かという対決であることを明らかにしました。
メディアの不当な扱いの中で全有権者に浸透したとはいえませんが、自民対自民の不毛の選択を回避し、県民に真の選択肢を提示した点で、大きな意義がありました。
(3)選挙の結果について
・斎藤候補が当選したが、それは一言で言えば、「継承対刷新」「金沢対斎藤」というメディアの煽りにより、井戸県政の下で充満していた県政を変えてほしいという県民の思いを改革ポーズで吸収したことと、自民党本部丸抱えの組織戦などによるもの。
井戸県政を高く評価する政治姿勢や、保健所・病床削減やコロナ対策などの政策が、有権者から支持されたわけではありません。
・斎藤候補の得票率は46.9%で当選者としては県知事選史上初めて半数を下回り、過去最低の得票率だった。有権者比で見る絶対得票率では18.9%に過ぎない。
つまり8割以上の有権者は支持していないということです。
(4)金田候補と憲法県政の会の奮闘の成果
・メディアが金田候補を選択肢から外し、真の争点を伝えない報道をくり返し、また後述する「戦略的投票」を行う有権者が一定数いたという非常に困難な条件のもとでも、金田候補の得票は18万4811票、得票率10.09%で、前回県知事選で憲法県政の会候補の津川知久氏の得票・率(14万8961票、8.08%)と比べ、3万5850票、2.01ポイント前進した。日本共産党の2019年参院選比例票からも約5000票上回った。
困難な中での非常に重要な前進です。
・くり返しになりますが、真の争点と対決点、選択肢を提示し、4つのチェンジ(①抜本的なコロナ対策②ジェンダー平等③地域の産業を支え、農林水産業を基幹産業に④子どもの未来を開く)を訴え、金田候補への投票に至らなかった人も含め有権者に「政治を変える道はここにある」と展望を示し得たのではないか。
「よく出てくれた」という声が多かったと聞きますし、「投票できる候補が見つかって本当に良かった」と涙を流して感謝した人もいたそうです。
・関連して、保健所と病床の削減の影響とその責任、今後どうするかが大きな争点に浮上したが、これは金田候補が候補者討論会で自民2候補に問いただし、無責任な姿勢やごまかす態度を浮き彫りにさせたことから大きな問題になったもの。
鋭い論戦で選挙情勢を切り開いた金田候補は本当に優れた、頼もしい候補者でした。
・それらと一体に県民との共同が広がった。
金田候補が県知事選後の記者会見で言っていましたが、「自民支持だが今度は金田に入れる」という人が続出し、女性、医療従事者、中小業者などコロナで苦難にあえぐ幅広い人たちからの支援と激励が寄せられました。
「若い女性が『いてもたってもいられなくて来た。ツイッターで予定を調べてきた』とモモタロー宣伝に参加」など、特に若い世代に大きく共感が広がったのも特徴でした。
これらは今後につながるとても大きな成果だと思います。
(5)「戦略的投票」について
・今回、「維新を阻止するために、よりましで勝てる可能性がある金沢候補を応援しよう」「金田さんの支持者も金沢に投票すべきだ」といういわゆる「戦略的投票」論が流され、「金田さん支持だけど、仕方なく金沢候補に入れた」という人が結構いた。
7月17日のフェイスブックで詳しく述べましたが、維新政治にさせてはいけないという気持ちはとてもよくわかるし、個々人がどういう判断で投票するかは全く自由であり、尊重されるべきでしょう。個人が「戦略的投票」を呼びかける自由もあるといえばあるでしょう。
しかし改めて思ったのは、民主主義という点から見ると如何なものかということです。投票したい候補に投票せず、本来なら投票したくない候補に投票せざるをえないというのは、国民主権に基づく参政権行使の健全な姿とは思えません。
その党や候補を支持していないのに、仕方なくだとしても投票すると支持したことになってしまいます。これでは民意が反映しないのではないでしょうか。とすると、少し大げさに言うと民意の反映を旨とする議会制民主主義の根幹が揺らぎかねません。
個人の判断は自由であり尊重されるべきですが、少なくとも「戦略的投票」を有権者に働きかける行為は、こういう問題を孕んでいるのではないでしょうか。
・ましてや、「金沢候補はよりまし」など事実とは言えないことや根拠のないことを持ち出して「戦略的投票」を呼びかけるのは、選挙を汚す悪質なデマ宣伝の類になってくる。
今回、他にも「斎藤は維新」「金田は当選の見込みがない」「金田が票を取るのは斎藤の当選を助けること」といった根拠のない議論と一体に「戦略的投票」論が流されました(7月17日の私のフェイスブック参照)。
しかし、斎藤候補は維新かというと、自民党が担ぎ出した候補であり、後から維新が推薦したもので、本人も「ベースは自民」(神戸新聞6月23日付)と言っていたように、「斎藤イコール維新」「維新系」とまでいうのは無理があります(推薦された以上、維新の影響は一定程度あるにしても)。
また金沢候補は、副知事として保健所や病床を削減して医療崩壊を招き、さらにそれを続けるとし、「行革」を推進して福祉・教育・暮らしの施策を全面的に切り捨て、コロナ対策本部事務総長だったのにまともな対策をせず、大規模PCR検査を否定する人物です。「よりまし」などとは絶対に言えません。
橋下徹氏でさえ大阪府知事・市長時代に行った保健所や病院統廃合で「現場を疲弊させた」と認め、反省的な発言をしているのに、金沢候補は上述のように保健所・病床削減は「今回のコロナに影響していない」と強弁しました。このどこが「維新よりまし」なのでしょうか。
事実をねじ曲げてまで「金田さんの支持者も金沢さんに」などと働きかけるのは、根拠のない話で票をかすめ取ろうとする悪質な行為といえます。地方選挙でよくある、「共産党は大丈夫だから今回は○○に」と根拠のない「大丈夫」論で他陣営が票をかすめ取る卑劣なやり方の変種のようなものでしょう。
・発生源は金沢陣営。井戸県政の正統後継者の立場ではどうしても不利なので、「維新対反維新」の構図に持ち込んで乗り切ろうとした。
井戸知事自ら「大阪対兵庫のたたかい」と叫びましたが、自らの悪政の結果である「県政を変えてほしい」という県民の思いを抑えることはできませんでした。
・さすがに政党や政治家がこうした「戦略的投票」論を公然と主張することはないが、今回、国政野党のある小選挙区候補がツイッターで「戦略的投票」を呼びかけていた。
政治家として許されないことだと思います。
(6)今後について
・8月1日に斎藤氏は知事に就任。私たち共産党県議団はもちろん野党として、斎藤県政と対決し、県民の要求の実現に力を尽くす。その点はこれまでと変わらない。
斎藤知事はまだ未知数な面もありますが、基本は指摘してきた通りの県政をすすめようとするでしょう。その中でも、「福祉が切られる、保育が切られる、地域が切られる、絶対にそんなことはしない。誰一人取り残さない」(毎日新聞)と演説していたことは守ってもらわなくてはいけません。
さっそく「退職金5割減」などとパフォーマンスをやっています。私たちはパフォーマンスであってもいいものであれば賛成しますが、どんな議案が出てくるかですね。
・コロナ第5波が到来し、県民の命と暮らしを守るためにいっそう力を尽くす決意。
金田さんの公約の実現は、主に私たち党県議団こそ担わなくてはなりません。安全・迅速なワクチン接種、大規模PCR検査、医療機関・事業者への補償、保健所・病床の削減をやめて増やすなど、全力で頑張ります。
・各党各会派の配置がどうなるかも注目。
特に、金沢候補を支援した立憲民主党と国民民主党は常識的には野党に回るはずですが、どうなるか。
ぜひきっぱり野党として頑張ってほしいと強く願います。そして一つ一つ共闘を積み重ねていきたいものです。
(ちなみに、あまり知られていませんが、立憲や国民、無所属でつくる会派「ひょうご県民連合」の団長は当初から斎藤候補支援を主張し、その後、「県民連合」を抜けて斎藤候補を応援する側の「自民党兵庫」にくら替えしました。「県民連合」の団長が自民党入りするとはあきれますが、どの会派も政治的立場は同じという古い「オール与党」の体質が示されたように思います。こういう「オール与党」体制に戻らないことを願っています)
長文をお読みいただき、ありがとうございました。